「Digital Insect Zone」を公開
written 2013/8/11
前作とは打って変わって、高速テンポの曲「Digital Insect Zone」が完成。
私はどちらかというと、こういう、リズミカルでメカニカルな動きの曲調が好きである。そして今回はかなり久しぶりにフガートを織り込んでいる。リズムの遊びは楽しいが、対位法様式で書くのはしんどいし、時間がかかる。
テンポが速いので100小節程度ではあっという間に曲が終わってしまう。どうやら「曲の長さ」の感覚というものは、テンポや小節数とは関係ないところで知覚されるようだ。同じ3分前後でも、遅い曲と速い曲ではまったく内容の濃さが変わってくるはずだが、「時間を占有するもの」としての音楽を確立するためには、小節数とは関係のない「演奏時間」の尺度を優先しなければならないように思う。
そうなるとテンポの遅い曲ではよりすぐりのわずかな音で緊張感を維持しなければならないし、テンポの速い曲では、むしろ冗長な書き方が必要になってくる。フーガはエクリチュールの密度を異常に濃くする様式なので、本来は中庸以下の遅い曲に向いており、バッハも急速調のフーガでは対位法密度の薄い、トッカータ的な書き方を選んでいる(というか、バッハの平均律などではテンポ表示がないので、演奏者によって、密度の薄さと主題の性格から、テンポの速い曲と判断される)。
私のこの曲も、したがって、フガートを含むが全体的にむしろトッカータ的、インヴェンション的な様相をまとうことになった。200小節近くまで来て、まだ3分に満たなかったが、これ以上続けても仕方がないと思い、曲を閉じた。
スタッカートの付いた3/8拍子のリズムは「Gear」(2011)に似ているが、もっと破天荒に展開してゆく。最後はフガートからも遁走し、素朴な単旋律のうちにこの遊戯を終える。
Digital Insect Zone (from "23 Preludes for Piano")
掲載ページ: http://www.signes.jp/musique/index.php?id=739
2013/8/11完成 2分46秒
MP3:http://www.signes.jp/musique/Preludes/DigitalInsectZone.mp3
楽譜:http://www.signes.jp/musique/Preludes/DigitalInsectZone.pdf
この夏短期間で続けざまに書いたピアノ前奏曲「Bogus Birds」(7/29)、「A Long Moment」(8/3)、そしてこの「Digital Insect Zone」(8/11)の3曲は、この曲順で、あたかもひとつのピアノソナタの3楽章となるかのように想定している。中間楽章は遅いので演奏も比較的楽だが、両端楽章は難しい。
次はアンダンテくらいのテンポで、ソラブジみたいな輝かしさの、しかし演奏がさほど難しくない、メロディアスな前奏曲を書きたいような気がしている。けれども、いろいろ思うところがあって、すぐに作曲にとりかかるかどうかわからない。全然別の曲を書くことになるかもしれない。