無伴奏ヴァイオリン2題
written 2012/1/9
昨年末から正月を挟んで、2曲の無伴奏ヴァイオリン曲を作成した。
この楽器のためのソロ曲としては、2年前に「Seiren(セイレーン)」というのを一度書いたことがある。ヴァイオリンに関してほとんど知識が無い状態で、改めていろいろ調べ、模索しながら試作したものだ。
その後昨年、ヴァイオリン・ピアノ・エレクトロニクスのための「時の生成」、弦楽四重奏曲、ヴァイオリンとピアノのための「リメインズ」と書き継ぎながら楽器をうまく活用するよう、独学でまなんできた(といっても、実際にヴァイオリンに触れる機会もなく、「無知な者の単なる想像」を超えることはできない)。
今回作ったうちの1曲目「Draco(りゅう座)」は、かなり苦労して書いた。とりわけ前半部分は相当の苦しみの中から生み出された。やはり、ピアノと違って複雑な和音を自在に使えないから、私の音楽語法の和声的な側面をかなり削ぎ落とさなければならなかった(弦楽四重奏でさえ、そういう問題があった)。ふだん「和声」にずいぶん依存してきたから、それが相当の制限を受けたとき、どのように音楽を推進できるかというおおきな問題にぶつかるわけだ。
Draco for Violin solo
音源: http://www.signes.jp/musique/Chamber/Draco.mp3
楽譜:http://www.signes.jp/musique/Chamber/Draco.pdf
「Draco」では一本線の上行音型の反復をメインにして「なにかが近づく」印象を形成しようとしたが、ここでは、(前衛に近い意味での)「現代音楽的」な要素を強めようとした結果、なにか中途半端な雰囲気になったかもしれない。私の音楽は、やはり「完全に前衛」の響きには至らないようだ。
「Draco」を作り終わってすぐに、もう一つの無伴奏ヴァイオリン曲「Cygnus(はくちょう座)」を書き始めた。こちらはテンポを遅めて比較的情緒的な要素を強調し、より旋律的に、聴衆にとってわりと親しみやすいものを、というイメージで作った。とはいえ、「セイレーン」とは違ってもっと現代音楽的な切断や飛躍も持ち込んだ。
Cygnus for Violin solo
音源: http://www.signes.jp/musique/Chamber/Cygnus.mp3
楽譜:http://www.signes.jp/musique/Chamber/Cygnus.pdf
これを書く作業は「Draco」とは比べものにならないくらいラクだった。苦しむことなく、すいすいと書き進めることができたが、途中ひっきりなしにうしろを振り返り、推敲を重ねた。
構成は極めて流動的・即興的なものにしたが、あるいは変奏曲のように聞こえるかもしれない。この気まぐれぶりはまとまった印象を与えないので、人を退屈させるだろうか? ある時期から私は、あえてクラシカルな「構成」を破壊し、中世・ルネサンス時代の歌謡を参照した、「構成なき構成」を実践している。「構成」の問題は、とりわけ今後、深く考えていかなければならないかもしれない。
これら二つの曲は立て続けに書いたが、互いに独立したものという位置づけである。なんとなく重複した和声・音型の展開もあるが、無伴奏ヴァイオリンの書法というものをマスターしていないわけだから仕方がない・・・。強いて言うと「Draco」は叙事詩的で、「Cygnus」は叙情詩的だと思う。後者の方がテンポは遅いが、32分音符もあるし対位法的な箇所もあるので、実際の演奏は難しいらしい。
ともあれ、無伴奏ヴァイオリンという、私には難しいテーマでの試作はとりあえず完了した。ほぼ1本線で1曲を作り上げるという作業はなかなか勉強になったと思う。しかし、当分このフォーマットでは書かないだろう。
次は再び、実際の楽器から逃れ、エレクトロニクス系の音楽に向かいたい。