セイレーン - 無伴奏ヴァイオリンのための
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written 2009/12/10
ヴァイオリンには触れたこともなく、畏敬と憧れの思いしか持つことができない。したがってこの楽器のイメージは根本的に異質な他者であるかのように、凛として立ちはだかる。縮めようもない「隔たり」が私をここに押しとどめ、縛りつけるのだ。
自ら動けないよう身体を固定しながら、あえて耳栓をしなかったオデュッセウスの、マゾヒスティックな享楽。彼は隠れないばかりか、逆にエロスの波動に身をさらす。性における受け身的なこの態勢は、去勢され不能となった男性のそれであり、その耳を性感帯へと変え、彼はひたすらエロスの契機を待ち受けながら、抑圧され行為しえない者の空想的な願望にふけるほかない。「自己否定」の無能感がもうひとつの享楽の可能性をひらくのだ。こうして自己疎外と並行したエロティシズムは、おのずとシマノフスキふうの神秘的官能性に遊ぶことになった。
作曲にあたっては、発音可能な音に相当の限界をもつ、自分の知悉しない楽器という制限に加え、使用している音源ではポルタメント、スル・ポンティチェロ、フラジョレットなどを使うことができず、著しく音楽性を限定されてしまったという事実を、言い訳として挙げよう。もっともこれらの「制限」は歌の純化という観点で、あるいはいい方向に作用したかもしれないが。
一応ヴァイオリンの構造を調べ、演奏不可能に陥らないよう努めたつもりだが、なにぶん無知な素人ゆえにこころもとない。ヴァイオリンに詳しい方にはご寛恕とご助言をお願いしたい。
(楽譜: http://www.signes.jp/musique/mp3/Chamber/Seiren.pdf )
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