item イカロス(チェロとピアノのための)- 八戸イカール国際音楽祭2022の思い出に -

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written 2022/9/21

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Score:
http://www.signes.jp/musique/Chamber/Ikaros/Ikaros_Score.pdf
Cello: http://www.signes.jp/musique/Chamber/Ikaros/Ikaros_Cello.pdf
Piano: http://www.signes.jp/musique/Chamber/Ikaros/Ikaros_Piano.pdf

 今年の夏、青森県八戸市へ旅行し「八戸イカール国際音楽祭」の8月15日夜のコンサートを拝聴した。1週間に及ぶ音楽祭に国内外の一流の演奏家が集っており、その夜はベートーヴェン「第5」のピアノ独奏版や近現代の室内楽が演奏された。私が期待していたシマノフスキ「神話」の演奏は本当に素晴らしかったし、他の曲、プーランク、カプースチンの演奏も大変良いものだった。この一流のプロによる音楽に触発され、自分もちゃんと書かねば・・・と反省したのが今回の創作動機だが、結局はやはり「ちゃんと」書けなかったような気がする。やはり才能なく、正しい努力の積み重ねもなかった私はこの程度なのだという当然の結論に落ち着いた。

 ところでそのコンサートで演奏されたカプースチンのトリオ(フルート、チェロ、ピアノ)についてだが、演奏はとても立派なものだったけれど、この作曲家のいつもの感じの作品自体の内容に対し、私はあまり高く評価出来ずにいる。近年この作曲家の作品は日本でもかなり頻繁に演奏されるようになった。ジャズのフレーバーで出来た曲調はお客さんにもまあまあ受けるようだし、特にピアニストにとってはバリバリに弾きこなせば「演奏の喜び」を感じるようなタイプの作風なのだろう。
 しかし、シロウトながら作曲者の目から言って、また、20代にはよくジャズも聴いていた者として言うと、カプースチンの作品はリズム・和声・構成・フレーズいずれにおいてもあまりにも単調でメリハリがなく、聴いていて退屈を感じてしまう。何を書いてもどこまで行っても金太郎飴のような音楽。まあ、これは個人的な感想にすぎず、楽しんで聴ける方にとってはそれでいいのだろうけれども。
 今回の私の作品には、実はカプースチンの作風への私なりの「対抗意識」があった。自分なら、もっとメリハリつけて変化に富んだ曲を作ることができそうだ。ただし、「ジャズっぽく書くこと」はもはやあまりにも陳腐なので、今回はプログレッシブ・ハウスのようなスタイルを織り込むことにした。
 私見では、ロックやポップやテクノなどは、国境がほとんど関係なくなった20世紀以降の現代文化における、折々の「若者たち」の民族音楽である。この諸々の「民族」が同一性を明確にするカラーを打ち出しているという証拠に、そこでは民族衣装(ファッション)が殊更に重視される。
 バルトークなど、19世紀末から20世紀初めにかけて、各民族音楽の素材をクラシックの文脈に持ち込んでくるやり方が多数あった。今や現代の民族音楽であるロックやテクノ等の要素をそのように扱うことは自然なことと私には思われる。
 今回の作曲はイカール国際音楽祭の記憶に立脚するからタイトルを洒落で「イカロス」とし、イカロス=飛行=快感、という連想から、サウンドの快感を追求しているように感じるプログレッシブハウスの要素(リズム形)を、今回は選んだのだった。四つ打ちのバスドラムを低音の四分音符並列に写したが、やはりバスドラの音でないと雰囲気が出なかったかもしれない。ピアニストさんが左足に余裕があれば、拍頭で床を踏んでドスドス音を出してくれたらいいかも(笑)。
 また、そのコンサートで演奏されたのは全て調性音楽だったので、無調ながらときどき調性の方向に寄せてみた。最近思うに、完全な無調の場合どうも色彩感が貧しくなりがちなので、カラフルさを取り戻すと言う意味で、調性的なものを部分的に取り込んだ方がいいのかもしれない。今回はちょうどその試みの一つとなった。書き終わってみると、もう少し調性部分が多くても良かったような気もしている。
 筋書きが余りにも容易に想像されてしまうのも困ったものだ。イカロスの神話は頗る有名なので、飛んでも最後には蝋で作った羽が太陽熱で溶けて墜落するという展開はあまりにも必然的で避け難い。そこはごくあっさりと書いて、事故死がそうであるように唐突であっけない感じで終わらせた。今回の作品に関しては、イカール音楽祭のような素晴らしい音楽に接したことで高度な音楽空間という夢の世界にしばし飛翔するのだが、しょせん私はただの凡庸な素人なので、しまいに夢は覚めて落下し、ふさわしく地べたに落着してしまう。だからここで落ちるのは私自身なのだった。


 この曲は、カプースチンのピアノ譜にあるようなプロフェッショナルな敏捷な指の動きはさほど要求しないが、そのかわり絶えず調の定まらない動きやある程度のランダム性を有する音符の並び、そして変拍子は、やはり演奏が難しいかもしれない。

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