楽譜を改訂した
written 2013/2/3
先日とうとうノーテーション(楽譜作成専用)ソフト「Finale 2012
」を購入した。多機能版は5万円以上もするので、必要性を感じながらもずっと躊躇していたのだが、Composers' Forumなるところで、私の新作「Way to the Winter Garden - for Flute and Piano」の譜面(Logicで出力したもの)がmadness(笑)だとかunreadableだという評価を受けたので、貯金を切り崩し、ついに購入を決意したのである。しょうもない音楽しか作れない無能なアマチュアなのに、ずいぶんと音楽にカネをかけている・・・。
「遺作」と称した「Context of Water」の後、エレクトロニカ、POP系を除いて、クラシカルなアコースティック楽曲を作る場合には、それを「誰かに演奏してもらわなければ意味がない」と決めつけることにした。なので、問題は「楽譜」になる。物理的には、作曲家が作るのは「楽譜」そのもので、それが十分に作者の意図を伝え、かつ、読みやすく、演奏者の意欲をそそるようなものでなければならない。ということは、DAWのLogicによるノーテーション機能にはいろいろと限界があるから、必然的に専門的な楽譜作成ソフトが登場しなければならないわけだ。
さてfinaleを購入してみたが、操作がさっぱりわからない。finaleは世界中で、プロにも使われている定番中の定番ソフトなのだが、どうもいじってみると、必ずしも操作性は万全ではないし、何よりメニューなどの構成がわかりづらい。実を言うとLogicだと簡単にできることが、finaleではなかなかできないという部分もある。
それでも何とか苦労を乗り越えて、キレイな楽譜を作ることができるようにならなければいけなかった。
LogicからMIDIファイルとして出力し、それをfinaleで読み込んで修正する作業だが、ピアノの複声部がぐちゃぐちゃになってしまい、それを直すのにかなり日数が経った。なんとか今日、「Way to the Winter Garden」の改訂版スコアがやっと出来た。
ほんの少し音を変えたところもあるので、音源も修正した。
○ 修正後の楽譜:http://www.signes.jp/musique/Chamber/WayToTheWinterGarden.pdf
○ 修正後の音源:http://www.signes.jp/musique/Chamber/WayToTheWinterGarden.mp3
この曲はフルートパートよりもピアノパートがはるかに難しい。私の書くピアノ曲は常に演奏困難な傾向があるようだ。もう少し音数を減らし、演奏がさほど難しくない形で書いた方がよさそうだ。
次回からは先にFinaleで楽譜を入力してLogicで音をいじる形にするかもしれない。まだはっきりしないが、音楽作りの制作環境が一変し、デジタルサウンドよりも「楽譜」へ、というおおがかりな軌道変更になってしまう可能性もある。
これは、音楽そのものをコンピュータ音源という仮構的装置によってシミュレートするということから、音楽そのものではない「楽譜」というエクリチュールへと重心を変えるということだ。「楽譜」は良い意味で
楽譜そのものは音楽ではないが、一人の卓越した演奏家が再現したものだけが音楽なのでもない。音楽はつねに「あいだ」にある。作曲家とその楽譜とのあいだ、楽譜と演奏家とのあいだ、そこから派生した音と聴衆とのあいだ。そもそも、作曲家が発想した楽曲もまた、作曲家自身と、あまたの「他者の音楽」や「音楽という概念/カテゴリー」とのあいだを、つかの間、とおりすぎてゆくものである。
かくして、不十分な指標としてのエクリチュール、「楽譜」を契機として、「あいだ」から「あいだ」へと、「音楽」はうつろってゆく。MP3で作成されてしまった音楽は、それ自体が完結し、自己を限定することで多義性をほとんど失ってしまうが、「楽譜」なる手段に転じた場合は、限定しきれない音楽が生き残る可能性があるだろう。
これは作者の言い逃れの余地を残すということではなく、作品に、永遠の未完成という開放的な空間を与えるということだ。「音楽」それ自体を、それが生まれてきた「あいだ」という闇の方へと返すということだ。音楽はいつも「これで全部」ではない、音楽はつぎつぎと「あいだ」をすりぬけて飛び去ってしまうはかなさの中で、新しい生を期待するだろう。