パウル・ヒンデミット
written 2003/9/6 [ updated 2006/6/2 ]
Hindemith, Paul (1895-1963)
新古典主義の代表格のひとりとされる作曲家だが、
その音楽はストラヴィンスキーのそれとは何かが違う。
しばしば無調にも近づく「現代的な書法」を採りながらも、
基本を調的な構築性に置き、J.S.バッハに範を仰ぐような線的対位法を追求する、
独自のスタイルを持っていた。
このような「地味」な特質を持つためか、ヒンデミットはなかなか理解されないようだ。
世間では代表作として知られているのは「画家マティス」あたりの交響作品だが、
ヒンデミットの真骨頂は室内楽以下の編成による音楽であろう。
線的対位法はそうした編成で最も明快なものとなるからだ。
特に得意としていたいくつものフーガは実に興味深い。
私の知る限り、最高傑作は「室内音楽 Kammermusik」
(室内編成の管弦楽による7つの協奏曲)である。
ヒンデミットの幸福さとは、
音楽思考と形式的な表現手法とが結びついていたことにあるだろう。
室内音楽第1番(12の独奏楽器のための)(1922)
この初期の作品は、「ヒンデミットらしからぬ」風刺的な諧謔の表現を持っており、その響きは六人組をすら連想させる。
室内音楽第7番 (オルガン協奏曲)(1927)
オルガンのストップと他の楽器が渾然一体となった、よく計算された響きがユニーク。
交響曲「画家マティス」(1934)
ヒンデミットの交響作品はドラマチックで、響きも豊かだ。それはたぶん、ドイツ音楽の伝統の教養に基づいているだろう。そもそももとはオペラ作品なのだから、このような響きを持っているのかもしれない(「世界の調和」も同様)。
ピアノ・ソナタ第3番 (1936)
第4楽章のフーガがかっこいい。律動的なエネルギーを生み出す素晴らしい主題が、音楽をぐいぐいと推進していく。
ルードゥス・トナリス (1942)
この曲には驚いた。傑作だ。
前奏曲、後奏曲の間に「ハ調」、「ト調」といった調性のフーガがならび、フーガとフーガの間にはそれぞれ間奏曲が置かれている。全体は60分近い大曲。
微妙にスケールをはずしながらも、基本的には標題どおり機能和声を利用しており、しかも多様なスタイル、多様な表情をもった短いフーガが並んでいて、実に面白い。
印象深い、いいフーガがいくつもある。
ただ、個々のフーガは短すぎるような気もするのだが・・・。その分、集中して聴かなければもったいない。
G.グールドはヒンデミットをあんなに称揚していたにもかかわらず、なぜ、この曲を録音しなかったのか。
もしグールドがこれを弾いていたなら、この曲は今もっと有名になっていたことだろう。
交響曲「世界の調和」(1951)
フィナーレの壮大なパッサカリアが印象的だ。