Chaos Program (feat. 巡音ルカ)
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written 2021/7/11
自分は作曲にだけ打ち込みたくて、DTM作業後半の「サウンドづくり」「ミックス」は結構手抜きで済ませてきたのだが、その辺もやっぱりちゃんとやらなくちゃなあ、と改めて思うところがあり、クラシックでは演奏家の領分に当たるそうしたサウンドづくりを最近は改善しようと図り、プラグインなどにも大金を突っ込んできている。ソフト音源の他に小型ハードウェア・シンセサイザーも増やし(Arturia MicroFreak、以前から持ってはいたのがKorg microKORG S)、今回はシンセの音で遊ぶことから始めた。
iMac - Logic Proでの作曲で巡音ルカv4を使う場合は、ボーカロイドトラックを作成するクリプトンのpiapro studioというのを用いるのだが、私にとって痛恨なことに、これは変拍子に対応していないのである。変拍子が設定できそうな箇所はUIの中にあるから開発予定だったらしく、「後日対応します」とメーカー側は言っていたのに、何年経っても全然その機能が実装されない。何か難しい問題があるのかもしれず、このまま永遠に実装されなそうだ。
従ってLogicでふつうにボカロ曲を作るなら、最初から最後まで拍子が変わらない曲にしないと、結構わずらわしい問題が起きてきてしまう。まったく不可能なのではないけれども、面倒なのである。
そんなわけで今回も4分の4拍子で一貫させた。テンポも一定だ。最近の調性的にまあ「普通な」曲調を基本にしている。冒頭の穏やかな雰囲気が基調となるが、サウンド・スタイルがどんどん変わり、サビに当たる「Chaos…」の箇所は「らんぼさく」(2021. 3)と同様にサビでメタル・ギターが乱入する構造となっている。
しかし「どこまでも続く連鎖」を楽曲として呈示するため、楽節まるごとコピペを今回は使わず、Aメロ・Bメロ・サビ共に、出てくるたびにバックサウンドが異なる。というか、「サビ」は1回目と2回目でメロディもかなり違っている。
「Catchy-T」(2021. 5)よりも更にサウンド面は改善されてきているだろうか? 数をこなせばもっと習熟してくるだろうと信じたい。
作りながら、システム理論に基づいたニクラス・ルーマンの『社会の芸術』を読み続けていたこともあって、1個のとりあえず閉じた生命体としての作品の内部にあるシステムが、どのようにリアルに・ラジカルに形成できるか? という問いを念頭に置いていた。
この曲で言うと冒頭の穏やかな雰囲気のうちに潜り込んでいるノイジーなサウンドが、裏面でひそかに成長していき、サビらしき部分で爆発するかのような展開となる。しかし「穏やかな雰囲気」という基調に回帰しようという円環的運動が露わになるから、対立するかのようで、いやそうでもなく、単に次元が異なっているだけなのかもしれない穏やかさ-激しさという情動/イメージ的な二項が共に存続し続ける。
「調和」や「同一性」というものに抑圧を感じ忌避しようとする私の中高生時代以来の傾向が、絶えず「異質さ」を巡る構造の運動性を希求するのだという気がする。
今回は四つ打ちリズムの「普通の様式」をはみ出すことはなかったが、やはり変拍子も使ってもっと変化に富んでラジカルな音楽を目指したいという思いは持っている。ボカロを使いたいなら、むしろiOS版のボーカロイドがちゃんと変拍子に対応しているので、ボーカルパートについてはそちらで作業してからwaveファイルをiMacに取り込むという方法もある。
前作を中心にキャッチーさを表に出してきたが、ここから、もうちょっと「現代音楽」らしいラジカルさに移行してみたいと現在企画している。
あと、動画を見ればわかると思うが、今回特にシンセサイザーのフィジカルな実演が多用されていて、こうした要素を用いることで、あまりにもデジタルなDTMでの作曲に肉体というアナログ要素の風を吹き込ませたいという思いもあり、今後も演奏行為を活用していくことになるだろう。
サウンド面も、もっともっと改善して行ければと思っている。
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