item 倉木麻衣はオヤジたちの華か?

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written 2009/5/10

 倉木麻衣のDVDを観ていて、1曲終わるごとに「まいちゃーん!!」と叫んでる野郎がいて、うるさいなあ、と思っていたが、ふと、恐ろしいことに気づいた。
 ライヴで観客席が映し出されたとき・・・そこに並んでいるのは、野郎、野郎、あんちゃん、オヤジ、・・・なんと、大半が男どもなのである。もちろん女性ファンもいるのだが、圧倒的に男が多い。しかも彼らはあまり若くない。30代から、40代。あるいはもっと・・・。はげたサラリーマン風の中年が、前の方の席に混ざっており(ということは、ファンクラブ会員か?)、バラードでいっしょに手を振っていたりする姿は、なにやら異様である。彼らが「まいちゃーん!」「かわいいーーー!!」などと叫んでいるのだ。・・・うーむ、なんか凄い世界かも。・・・
 しかも、こういった中年くらいの男女はわずかではなく、客席のそこら中にいるのだ。

 つまり、倉木麻衣を好む層というのは、どうやら決して若くない。それどころか、中年男性ないしその予備軍くらいの男性が多いようなのだ。これは同年齢の倖田來未が常に若い(十代含む)女性からの歓声を浴びていることと比べると、実に興味深い。

 倖田來未と倉木麻衣のファン層をこんなに隔てている原因のひとつは、もちろん、倉木麻衣が既にデビューから10年経っており、彼女が最も売れたのはデビュー当初のアルバムだったから、世代交代がほとんどないまま、10年前のファンが単に歳をとったのだと考えられる。一方の倖田來未は、ブレイクしたのは3−4年前であり、ファンはまだ新しい層なのである。
 さらに、「キャラクター」の違い。これが大きいだろう。
 倖田來未は「化身する本性」によって、一部の女子中高生にとってカリスマ的存在になった。女子中高生というのは、現代日本の音楽産業の中核にいる消費者であって、そこからしかトレンドは生まれてこない。いくら男どもや青年層が倖田來未をけなしたって、無駄なのである。十代の彼女らが倖田來未を捨てない限りは。
 倖田來未の性格がなんとなく10代に近いような、幼いような面がある(大言壮語とか)のに対し、倉木麻衣はどちらかというと大人っぽい雰囲気を持つ。デビュー当時の16歳くらいから彼女は落ち着いた雰囲気をもっていたが、今の彼女も年相応という感じで、普段からジーンズにTシャツといういでたちの、いかにも「普通の女性」という様相だ。

 さらに音楽性について言うと、言うまでもなく倖田來未はglobe、浜崎あゆみと続いた「avex系」の直系で、派手なトレンド路線。一方の倉木麻衣は、非常にオーソドックスなPOPソングという感じで、はっきりと特徴もないため、今の10代にアピールすることはないだろう。
 そもそも、倉木麻衣の楽曲は(彼女が自分で作っているわけではないが)、80年代のアメリカン・ポピュラーミュージックを思い出させるような、ちょっと懐かしい感じのアレンジが多い。さらに、もっと徹底的に「懐かしい時代」の、日本の「歌謡曲」のような旋律性が、核心にある。演歌的心情を引き継いだ、まさしく「日本人的」以外のなにものでもない、切々とした「歌謡曲」なのだ。
 こういった要素も、若い層ではなく、青年期末期から中年期の人間に訴えかけているのだろう。
 倉木麻衣自身が好むらしい「R&B」テイストも(しかし、彼女自身の歌唱法はR&Bのパワフルな歌い口には全く向いていない)、バックバンドに黒人男性を配する傾向も、その音楽を「なんとなく大人っぽいもの」にしている。ステージやPVも、avex系に比べれば非常に地味なものだ。

 しかし倉木麻衣の歌が中年男性たちに歓迎される最大の原因は、その音楽が、疲れた野郎どもにいっときの穏やかな楽しみを提供してくれるからだろう。疲れた中年には、倖田來未の声はときとして、キンキン響きすぎる。
 
 まあ、ファン層に関するこうした傾向から言って、倉木麻衣が「音楽産業シーン」の最前面に再び登場することはあるまい。倉木麻衣自身はこの状況をどう思っているのか? いや、彼女はたぶん、何も気にしていない。「こうしてやりたい」という、倖田來未には露骨な作為の志向性は、彼女にはないようなのだ。たぶん彼女は自分の好きなように歌って、好きなようにやり、好きなように去っていくのだろう。周りのことをあまり計算したりしない。
 こういう「さっぱり感」もまた、中年男性の好きな女性性なのだろうか?

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