ありがとう、世界 - feat. GUMI & WIL & 結月ゆかり
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written 2019/5/4 [ updated 2019/5/5 ]
前作「亀裂」に続いて、iPadでのKORG Gadget + Mobile Vocaloid Editorによる制作方法で、新しいボカロPOPソングを書いた。
「ありがとう、世界」。
今回は最後にiMacーLogic Proでのミックスーマスタリング作業を丁寧に行ったので、前回よりもずっと良い仕上がりになったと思う。サウンドとして完璧ではないが、音圧は高い。
今回の「歌」の構造はわかりやすいだろう。
16小節以内のブロックを積み重ねていくしかないKORG Gadgetの特性に沿った作曲方法だ。
サビはなく、いわゆるAメロがリフレインとなって7回も繰り返されるが、ほとんどは8小節の単純な旋律を2回反復しつつ、この16小節のブロックは出だしの変ロ長調からロ長調、ト長調、ハ長調を経て最後に変イ長調に到達する。
そしてこのリフレイン・ブロックの合間にBメロというか転調を遂行する移行部/エピソードが挟まる。全体は従ってロンド形式に似ているが、7回も繰り返されるリフレインは調やアレンジ(色彩・音色セット)をどんどん更新していく変奏曲形式でもある。
リフレインの対旋律としてオブリガート・メロディも強調されている。
「ラララ」「アアア」「ルルル」などと歌われるこの旋律は、執拗なオスティナートとしても活用される。
前奏と中間部は無調である。
無調の混沌じみた響きから明快な調性が出現してくる晴朗さを、ラウタヴァーラに学んだ。本当は、交響曲ならもっと前奏部分を長くしたことだろう。暗から明へという流れはいかにもベートーヴェン的ではあるが、ここでの「明」はブラームスの交響曲1番終楽章に似て落ち着いた雰囲気だ。
大衆カルチャーにあって、何が何でも生に前向きであろうとするメッセージを前面に出す普遍的「鉄則」を、私は以前から「前向き症候群」と呼んで馬鹿にしていた。「前向き鉄則」のおかげでマイナス要素となるような陰りや異質性が排除・隠蔽されてしまうからだ。
そんな私が、
「ありがとう、世界」
「愛がすべてを満たしてゆく」
などというポジティブ全開な歌詞を書こうなどとは、夢にも思っていなかった。
人間は気分次第である。
この曲の世界観は、独り取り残されて生活を始めた自分が、晴天の陽光を浴びてときおり至福の感情を覚えた経験に基づいている。
差してくる陽の光に温められ、ゆったりとした時間を意識したその瞬間は、「もう何も要らない」という境地であり、まさにそのとき、「もう死んでいい」のだった。
この曲の歌詞には明言されないが、実はこの歌の「書き手」は今まさに「死のう」としているのであり、その終局の意識が、自己をも含めた一切が至福の輝きを帯びて体感されるのだ。だからこそ、
「静かな眠りを待つ」
「悪くない人生だったよ」
「ここから始まるんだ 永遠という安らぎが」
といったセリフが出てくるわけだ。
これは、実際に死なないまでも、老境の入り口に達した自身を感じ、家族を失い敗残の身として沈黙の生の空間にいることを自覚した意識に生じてきた境地である。失われた家族の光に満ちた幸福の記憶が、今よみがえって胸を温めている。そこには確かに痛みも存在している。
ありがとう世界 ぼくを受け入れてくれて
陽の光を浴びながら 静かな時を迎える今
穏やかな時が 身体の内に流れ込む
過ぎゆくものをいとしく ながめ静かな眠りを待つ
苛立ちや怒りや絶望に かき乱され 狂い
さまよい続けた日々も
今は懐かしく
自分を許せるような気がして そして今ここに
ありがとう世界 ぼくを包んでくれて
柔らかなぬくもりが すべてを受け止める今
求めてたものは ほとんど得られなかったけど
意味がなかったわけじゃなく 悪くない人生だったよ
地上の生き物たちが たどり着くこの場所で
あらゆる差異は超えられて そして海へ 海へ
(長い道のりだった 生きることは常に 苦しみに満ちて
逃げ出したくもなったし
知りもしない奴らにディスられ 悪意に打ちひしがれ
自分もまた 人を傷つけた
しょうもない人間だよ ぼくは
そのくせいつも 誰かに認めてもらいたいなんてね
しかし、宇宙は浸透する
意味はかりそめ こころを揺さぶる幻
ぼくはちっぽけだ
合目的性や効率を忘れられたらなあ
スピードや義務や計画 いつだって何かに追いかけられていた
疲れたよ
もう逃げはしない
時間の外へ 光の中へ さあ)
心地よい風が こころの傷を癒してゆく
かけがえのない記憶が 蘇り ページを開く
大切な思い出はいつも輝きとともにある
胸に抱いた宝物 愛がすべてを満たしてゆく
誰もが孤独で 愛されたいと願ってる
どこまでも満たされない気がして
だけど今は
ありがとう世界 水の流れとともに
ここから始まるんだ 永遠の静かな時間
ここから始まるんだ
永遠という安らぎが
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